東京高等裁判所 昭和47年(ネ)3043号 判決
一 当裁判所は本件物件の製造、販売及び展示が本件実用新案権及び意匠権を侵害するものであるとの控訴人の主張を採用することができないと判断するものであるが、その理由は後記二、三のように変更するほか原判決記載の理由と同一であるから、これを引用する。ただし、原判決二十四枚目表一行目、四行目、六行目、同裏三行目、二十六枚目裏二行目及び三十一枚目表十行目に「逆U字状部」とあるのを「彎曲状部」と訂正し、二十四枚目表一行目の「その終端に」の次に「本件考案の逆U字状部に相当する」を、二十六枚目表十一行目「連繋片」の次に「又は連繋部」を、「逆U字状部」の次に「又は彎曲状部」を加入し、原判決二十九枚目表六行目に「練繋部」とあるのを「連繋部」と訂正する。
二 原判決二十六枚目裏十行目「原告の右主張は」から二十七枚目表八行目「である。」までを次のとおり変更する。
前出甲第一号証(公報)に載せられた本件実用新案の明細書には、その考案の詳細な説明として、連繋片の構成、作用効果につき、「逆U字状部7・8の先端には連繋片9・10が垂設していてその下端間に、上面を弧状としかつ前後面をくぼませた横桟11を架設している」、「しかもこの横桟11は連繋片9・10間に架設したものでハンガー主体aの逆U字状部7・8との間に空隙を有するためズボン等の掛け外し作業に支障を与えたりすることがない」と記載され、その第1図及び第3図には逆U字状部とは別体に形成された丸棒状の連繋片9・10が逆U字状部7・8の下端から垂設されているところの表示があるが、これらの記載によれば、本件考案はハンガー主体の逆U字状部下端と横桟の上面との間に空隙ができるようにするため両者の間に特に連繋片を垂設することを構成要件とするものであつて、連繋片が控訴人主張のように右逆U字状部下端と横桟との間に一体をなしているものではないことが認められるのに対し、原判決添付物件目録一に図示かつ説明にかかる本件物件の構造はハンガー主体の彎曲状部と横桟とを、その結合する内側面において生じる鋭角部分を若干埋めるように、幾分彎曲させて合体したものであつて、両者の間には本件考案にみられるような連繋片の垂設によつて空隙をつくるという構成を欠き、その結果、ズボン等の掛け外しを容易にするという作用効果において本件考案のものに劣る点があることをたやすく推認することができる。
なお、本件考案のハンガーにおける横桟が上面を弧状とするほか、その前後面を共にくぼませた形状をしていて、その登録請求の範囲にも、そのように記載され、その考案の構成要件をなすものであることはさきに認定のとおりであるが、前同物件目録記載の本件物件の横桟は上面を弧状とし前面をくぼませながら、後面を前面と反対方向に彎曲する傾斜面としているから、その点、本件考案のものと構成を異にする。また、前掲明細書によれば、本件考案のハンガーにおけるフツクはハンガー主体の頂点部に埋設した基端を膨大部としていることが認められるが、これに対し、右物件目録記載の本件物件のフツクはハンガー主体の頂点部に挿着した部分に環状溝を刻設しその下方を、より大径としているから、その点、本件考案のものと構成を異にする。もつとも、本件考案のハンガー及び本件物件の各横桟がいずれもズボン等を二つ折にして掛ける役目をし、そのズボン等に折目、しわ等の生じるのを防ぐ作用効果を奏することはその形状から窺うに十分であり、また、両者のフツクはいずれもハンガー頂点部からの抜脱を防止する作用効果を挙げる形状をしているので、これらの点を勘案するときは、両者の横桟及びフツクにおける形状の差異は単なる設計上の微差とも受取れる。
しかし、本件物件はさきに認定のとおりハンガー主体の逆U字状部に垂設するという構成を欠き、これに伴いズボン等の折目等を防止する作用効果に劣る点及び既出(a)の点(原判決二十四枚表四行目ないし八行目に記載の点)において本件考案のものと構成を異にする以上、本件実用新案権の技術的範囲に属しないというべきである。
三 原判決二十九枚目裏一行目「これ」から同二行目「印象を異にし、」までを次のように変更する。
本件意匠にかかる物品と本件物件との類否を考えるについては、ハンガーという物品の機能、用途が必然的にもたらすありきたりの形状よりも、これを除外した形状に美的思想の差があるかに着眼すべきものであるが、この点に留意して全体として観察した場合、以上に示した両者の相違点に看者の注意を強く惹くものがあると感じざるをえない。
四 よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。
〔編註〕本件における当事者の主張は左のとおりである。
(当事者の求めた裁判)
控訴人代理人は「(一)原判決を取り消す。(二)被控訴人帝商株式会社は原判決添付物件目録一及び二記載のハンガーを業として製造し、譲渡し又は譲渡のために展示してはならない。被控訴人東京マネキン株式会社は右同ハンガーを業として譲渡し又は譲渡のために展示してはならない。被控訴人帝商株式会社はその本店、営業所及び工場に存する右同ハンガーを廃棄せよ。(三)訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは主文同旨の判決を求めた。
(当事者の主張、証拠関係)
当事者双方の主張の陳述及び証拠の提出認否の関係は次の点を附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決中、その十枚目表五行目の「彎曲」の次に「延出」を加入し、十三枚目表七行目に「請求原因一の三」とあるのを「請求の原因一の(三)」と、同裏一行目及び五行目に「据部」とあるのを「裾部」と各訂正する。
一 控訴人の主張
控訴代理人はその主張を次のように補足陳述したほか、原判決十五枚目表九行目から裏六行目までに記載の主張を撤回すると陳述した。
1 本件考案のハンガーにおける横桟が上面を弧状とし、前後面を共にくぼませているのに、本訴請求の趣旨掲記のハンガー(原判決摘示の「被告物件」に当る。以下、「本件物件」という。)における横桟が上面を弧状とし、前面をくぼませてはいても、後面を傾斜面としている点において、両者は形状、構成は異なるが、いずれも二等辺三角形環状体の底辺を構成し、ズボン等を二つ折りにして掛けるものである点において技術的目的を同じくし、そのズボン等に折目、しわを派生させるおそれがないという作用効果が同じであつて、前記のような両者の相違点は設計上の微差にすぎない。
2 本件物件のフツクはハンガー主体の頂点部に埋設した部分の基端に環状溝を掘設し、これより下方の部分を環状溝の箇所より大径にしているから、本件考案のハンガーにおけるフツクがハンガー主体の頂点部に埋設した部分の基端を膨大部としているのとその構成を同じくし、また、右構成によりハンガー主体の頂点部からの抜脱を防止し、かつ、回動自在とする作用効果の点において同じである。
3 本件物件は横桟の両側方に位置するチ・リの部分(原判決別紙目録一添付図面第1図(〔編註〕省略)参照)が逆U字状部と横桟とを一体的に連繋されているから、本件考案のハンガーにおける連繋片に相当する構成を有するとともに、逆U字状部下端と横桟との間に介在することによつて、その内側面にズボン等の端辺が挟入されるような狭小な間隙が形成されることを防止し、あたかも、本件考案のハンガーにおける連繋片が逆U字状部と横桟との間に空隙をつくり、ズボンの掛け外しに支障を与えないのと作用効果において等しい。
二 被控訴人らの主張
被控訴代理人は控訴人の右主張を争い次のように述べた。
1 本件物件の横桟の構成からすると、これに掛けるズボン等に折目、しわが生じやすく、この点で本件考案のハンガーにおける横桟に劣る。
2 本件物件のフツクはハンガー主体の頂点部に埋設した部分の基端に環状溝を埋設し、本件考案のハンガーにおけるフツクがその埋設部分の基端を膨大部としているのと異るから、それより下方の部分の形状が本件考案のものと同じであつても、全体を対比すると本件考案のものと構成を異にするといわざるをえない。のみならず、本件物件のフツクはその径自体がそれほど太くないので、環状溝を深く掘設できないから、本件考案のものに比し、ハンガーの頂点部から抜脱する可能性が大きい欠点がある。
3 本件物件には連繋片がないから、本件考案のものと異り、ズボン等の掛け外しがしにくい欠点がある。